40th Engineering

フリスクのCMをご存知ですか?日常の中にアイデアが降りてくる瞬間を切り取った傑作です。そんな「ピーン」とした瞬間を記録に残したくてブログを始めました。現状ほとんど買い物日記ですが。

ポールスチュワートのスーツを買う

過去このブログで何度か言及しているが、学生のときは村上春樹さんの小説が好きだった。
 
村上春樹さんとか小沢健二さんとか糸井重里さんとか、一定以上の歳を取るとファンだったことがなんだか気恥ずかしくなってしまう著名人というのが世の中には存在する。ただいいおじさんになった今思うのは、「気恥ずかしい思いをさせる」というのはものすごく稀有な才能だということ。やっぱりすごい人たちだったんだ、というのが一周回っての感想。
 
そんな村上男子たちは、おそらく一度はアイビー系スーツの購入を検討したことがあるはずだ。実際僕も社会人2年目にブルックスブラザーズのスーツを買った。もろアメリカントラディショナルなシルエット。正直言ってまったく似合わなかった。
 
この手のスーツは上半身の鍛え方がモノを言う。僕はサッカーをやっていたので、下半身はそれなりだったが、上半身はペラッペラだった。おまけに短足、O脚。別にアメリカ人になりたいと夢見たことは一度もなく、洋楽は英国ものばっかりを聴いていた人間ではあったが、「アメフトでもやろうかな、、、」と血迷ったのはいい思い出。
 
似合わなかったのだけど、僕はこのスーツを着て会社に行くのが好きだった。誰一人「おっ、ブルックスブラザーズだね!粋だね!イイネ!」なんて言ってくれなかったが、着るたびにちょっとドキドキした。なんか自分が一端の大人になったような気がした。
 
今振り返ってみれば当時のブルックスブラザーズだって、日本人向けにアレンジしたスーツは用意していたはずだ。だけど僕はそこで三振。バッター交代。以来20年、アメリカ系のスーツは遠ざけてきた。というか最近はあまりに遠ざけすぎて、青山系やはるやま系までたどり着いていた。
 
あらかじめ言っておくと、青山系やはるやま系は嫌いではない。結構よくできているし、世のオシャレ系セレクトショップのアンダー7万くらいのスーツと比較したら、こっちのほうがいいと思っている。
 
思っているのだが、今まで僕が買ってきた青山系、はるやま系のスーツは、なぜかすべて、パンツのダブル裾の折り返しの縫い留めがすぐにほどけてしまった。これは別にメーカー云々ではないと思う。思うのだが、漏れなくすべて。例外なし。
 
いや、そんなの留めろよ、裁縫箱くらい持ってるだろ?と言われればそれは持ってる。持っているどころか結構いいミシン持ってる。ほとんど使ったことないけど。ミシン男子に憧れていた時代が僕にもあったのだ。自分でシャツ縫っちゃう??みたいな。
 
まあそれはともかく。道具はあるがそんなことはできない。会社員は忙しい。というほど忙しくはないんだけど、何が楽しくてズボンの折り返しがほどけないようチクチク縫わんといかんのだ。
 
幸いというべきか、ダブルの折り目がしっかりついているので、縫い留めされていなくても状態をキープできる。できると思って出社すると、夕方くらいには「殿中でござる!」みたいな裾になってる。そんなことが繰り返されて、青山系、はるやま系はちょっとな、、、と思うようになった。いや、メーカーの問題ではないんだろうけど、多分。
 
それで、たまには少し高いスーツでも買ってみるか、と考えた。もう何年も5万以上のスーツを着ていない。正直10万以下のスーツの差はブランドだけ、という気もするのだが、いいよ、たまにはお主の目論見に乗ってやるわい。
 
そう考えて新宿の伊勢丹メンズ館へ。せっかくならブランド直営ショップまで足を運ぼうと考えたが、アマゾンに甘やかされまくった僕には伊勢丹メンズ館が限界。いろいろ見てみようと思ったけど、実はお目当てのブランドがひとつありました。
 
ポール・スチュワート。
 
僕はそこまでスーツに詳しくはないが、アメリカントラッドスーツといえば、ブルックスブラザーズとポールスチュワート、Jプレス、カジュアルラインのほうが有名だけどラルフローレン。この辺りですよね。
 
その中でもポールスチュワートはよりスマートで洗練されたイメージ、僕の中では。一番イギリスっぽいというか。ただ、「ポールスチュワートとポールスミスは語感が似ている→イギリスっぽい」という流れなのは間違いない。先に告白しておくと。
 
とにかく。ポールスチュワートは僕にとって憧れのブランドだった。ブルックスブラザーズと並んで。再びブルックスにチャレンジする手もあったが、その勇気はまだ僕にはなかった。それでポールスチュワートというわけ。
 
ポールスチュワート自体は何年か前に三井物産に買収されている。もはや純アメリカンブランドではないんだよな、、、という一抹の寂しさはあったが、まあいいだろう。僕はあまり細かいことは気にしない。ポールスチュワートで8万円くらいのスーツないかなあ、なんて思いながら伊勢丹メンズ館に行ったらちょうどセールをやっていた。
 
僕のモットーは「セールで買うな」なんだけど。もはや誰も信じてくれないけど。まあ安く買えるならそれに越したことはない。
 
こういうときに元値8万のスーツがどこまで下がっているか目を皿のようにしてチェックするのが僕の器。しかし今回はカミさんも付いてきてくれたので、それはぐっとこらえた。男らしく。
 
「8万円くらいまで値段が下がっているスーツを買うよ、僕は」と高らかに宣言してポールスチュワートの一角へ。左から順に値札を引っ張り出していく。そしたら14万円のが8万くらいになっていた。
 
14万円!!間違いなく僕のスーツ歴においてNo.1の価格。ちなみにこれまでの最高は10万円。ブルックスブラザーズ!!ついにこれを超える時が来たのか!!っていや、8万なんだけど。
 
柄はいくつかあったが、一番シンプルなネイビーのストライプにした。僕がポールスチュワートのイメージだと思うやつ。というかこれならアメリカブランドにこだわる必要全然ないじゃーん、というやつ。試着もしてOK。クレジットで決済。
 
そして今、僕の家にポールスチュワートのスーツがある。
 
スーツを前に妙に冷静な自分がいる。買い物に後悔しているわけではない。どうあれスーツは必要だし、たまには二着買える値段で一着買ったっていいだろう。さすがに14万するスーツ、まあ8万だが、だけあって、今まで着てきたものとは少し違う感じもする。
 
だけど、20年前、ブルックスブラザーズのスーツを着て鏡を見ながらドキドキした自分はもういない。歳を取るということは、引き換えに何かを失うことなのだ、やれやれって村上春樹風に締めようと思ったのだけど、妙に冷静な理由はそっちじゃなくて、ダブル裾の縫い留め(ボタン)が取れそうなのに気付いたから。
 
おいおい、どういうことだよ。